続いて、スライドNo.35を参照しながら、「商標」の事例5について説明します。
事例5の登録商標は「パワーステーション」ですが、その商標権者であるD社の商号は、株式会社パワーステーションです。
従って、登録商標「パワーステーション」は、意匠権者であるD社の商号から「株式会社」の部分を除いたものと同一となっているところが、事例5の特徴です。
登録商標「パワーステーション」が使用される指定商品は、「食肉、加工食料品など」です。
他方、E社は、ロック音楽レストランで、「POWER STATION」というマークを、ホットドッグやハンバーガーを入れた食器や包装用紙に付けて、客に提供していました。
事例5の経緯をスライドNo.36に示しています。
つまり、D社は、いくつかの「給油所(ガソリンスタンド)」を経営していて、そこでガソリン、軽油等を販売していました。
ある時、D社は、自社の各々の給油所(ガソリンスタンド)に「レジャーライフショップ」を併設して、そこでお客がショッピングできるようにしました。
他方、E社が経営するレストランは、B1フロアとB2フロアがあり、両フロア間に「特別シート」を設置していました。
B1フロアとB2フロアには「カウンター」があり、飲料と加工食料品(ホットドッグやハンバーガー)を販売していました。
B1フロアとB2フロアのお客は、「立ち見」で、B2フロアのステージで行われるロックの生演奏を鑑賞でき、特別シートのお客は、「着席」して前記生演奏を鑑賞できるようになっていました。
スライドNo.37は、先のスライドNo.36に示した事例5の経緯の続きです。
E社が経営するレストランでの販売状況ですが、お客が、B1フロアとB2フロアの「カウンター」で、希望する加工食料品(ホットドッグやハンバーガー)を買うと、「透明なプラスチック製の容器または紙箱
」に入れて渡されていました。
その容器または紙箱には「POWER STATION」のマーク(
これは商標登録されていません)が入っていました。後述するように、これが問題になりました。
また、E社が経営するレストランでは、このようにしてお客が買った加工食料品(ホットドッグやハンバーガー)を、お客が持ち帰ることを予定していなかったので、そのための紙袋や包装袋は用意されていませんでした。
実際、買った加工食料品(ホットドッグやハンバーガー)をお客が持ち帰ることは、禁止されていませんでしたが、持ち帰りはほぼ皆無といってよい状況だったそうです。
E社が経営するレストランでの加工食料品(ホットドッグやハンバーガー)の販売状況を知ったD社は、自社の登録商標「パワーステーション」の商標権に基づいて、商標権侵害でE社を訴えました。
ここで、D社のとった考え方と行動を考えてみましょう。
(1)D社は、自社が持っている、そして現に使用している登録商標「
パワーステーション」に類似する商標「POWER STATION
」を、E社が運営するレストランで加工食料品(ホットドッグやハンバーガー)を入れる容器や紙箱に付けて使用しているのを見つけました。
そして、E社のその行為は、自社の登録商標「パワーステーション」の商標権を侵害するものだから、E社のその行為を止めさせたい、と考えたわけです。
(2)確かに、E社が使用している商標「POWER STATION」は、A社が持っている登録商標「パワーステーション」に類似します。
しかし、E社が自社のレストランでお客に提供している加工食料品(ホットドッグやハンバーガー)は、客がその場で食べて消費するものとして調理され、販売されているものだから、一般市場で流通に供されることを目的として販売されているものではありません。
従って、E社が販売する加工食料品(ホットドッグやハンバーガー)は、商標法2条3項にいう「商品」に当たりません。
つまり、「POWER STATION」というマークを自社の運営するレストランで加工食料品(ホットドッグやハンバーガー)を入れる容器や紙箱に付けて使用するというE社の行為は、D社の登録商標「パワーステーション」の商標権の侵害とは言えないのです。
続いて、スライドNo.39を参照しながら、先のスライドNo.38に示したD社
がとった考え方と行動についての検討を続けましょう。
(3)E社が自社のレストランで行っている前記行為は、明らかに、加工食料品(ホットドッグやハンバーガー)のお客への提供です。つまり、加工食料品をお客に提供するという「役務(サービス)」を自社のレストランで行っているにすぎないのです。
注意が必要なのは、レストランにおけるこのような役務(サービス)は、
一般的には、加工食料品(ホットドッグやハンバーガー)に類似すると考えられるから、D社の登録商標「パワーステーション」の商標権を侵害することになり得る、というのが、特許庁の考え方です(「類似商品・役務審査基準
」を参照)。
しかし、このような特許庁の考え方には、「例外」が書かれています。つまり、特許庁のその考え方はあくまで「一般論」であって、事例5における「加工食料品」という商品と「加工食料品の提供」という役務(サービス)が類似するか否かの判断は、その「具体的な実情」、つまり、「E社が自社のレストランで行っている前記行為が具体的にどのようなものであるか
」を考慮して判断される、とされているのです。
この点に注意しないと、D社のような失敗を招く可能性が高くなりますので、注意が必要です。
「ライバル企業を商標権侵害で訴えたい」とお考えのときは、必ず、「訴訟を提起する前に」、弁理士等の専門家から助言をもらうようにしてください。
スライドNo.40を参照しながら、この事例5から読み取れることを考えてみましょう。
第一に、
(1)事例5のように、自社の登録商標に類似する商標を、その登録商標の指定商品に類似する商品または役務(サービス)について他社が使用する行為(つまり、類似ー類似の場合の商標使用行為)を、前記登録商標の商標権で止めさせようとするときは、十分な注意が必要である、ということです。
第二に、
(2)商標の類否については、相手が使用している商標が、自社の登録商標に非常に似ていて「誰が見ても明らかに類似する」と言える場合は問題は少ないが、そうでない場合は、「相手が使用している商標が自社の登録商標に類似することを、どうやって立証するか」を考えておく必要がある、ということです。
第三に、
(3)商品・役務については、相手が使用している商品や役務が、自社の登録商標の指定商品や指定役務と明らかに同一となるようにすべきである、ということです。
事例5のように、裁判所に「商品と役務が互いに類似する」という判断を期待するのは、リスクが大きすぎるのです。
以上から言えることは、事例5では、D社は、 「加工食料品」という商品についてだけではなく、「加工食料品の提供」という役務(サービス)についても、商標権を取っておくべきだった、ということになります。
そうしておけば、D社は、前記裁判においてE社がD社の商標権を侵害したことが裁判官に認められ、勝訴できたことは間違いありません。
具体的に言えば、商標登録出願の願書において、例えば、以下のように記載すればいいのです。
【商標登録を受けようとする商標】パワーステーション
【指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分】
【第○○類】
【指定商品(指定役務)】 加工食品
【第○○類】
【指定商品(指定役務)】 加工食品の提供
以下は、事例5に直接関係するわけではありませんが、中小企業の経営者に知っておいてほしいことです。
(4)図あるいは文字だけから構成される商標を出願する場合と、図と文字を組み合わせて構成される商標を出願する場合で、商標権を取得できる可能性が変わり、取得する商標権の権利範囲も変わる
、ということです。
(5)例えば、図と文字の組み合わせからなる商標をそのまま出願するか、前記商標を構成する図と文字のいずれか一方だけの商標を出願するか、前記商標を構成する図だけからなる商標と、前記商標を構成する文字だけからなる商標を別個に出願するかで、商標権で保護される範囲が大きく変わる
、ということです。
(6)基本となる商標だけでなく、それに類似する商標も併せて権利化すると、それらの商標が使われる商品・役務(サービス)についてのニッチ市場を独占しやすい、ということです。
(7)商標は簡単に模倣されるから、ニッチ市場の独占を意図しているときは、その市場を常に監視し、他社の違法行為を見つけたら、直ちに、「自社の商標権を侵害しているから販売を中止するよう要求する警告書」を送ったりして、迅速に対処することが大事だ、ということです。
以上で、特許、意匠、商標に関する事例を使った説明は終わりです。
最後に、「中小企業に対して弁理士が貢献できることは何か」について触れて、本セミナーを終わることにします。
以上、特許権、意匠権、商標権について事例を使って説明してきました。
これによって、少しでも、特許権、意匠権、商標権の働きや取り方、使い方などについて、ご理解が深まったのであれば幸いです。
最後に、特許権、意匠権、商標権をはじめとする知的財産権の専門家である弁理士が、知的財産権を活用されていない中小企業に対して貢献できること、についてお伝えします。
一つは、特許・実用新案・意匠・商標の出願手続と、それを通じて特許等の権利を取得することです。
これは弁理士の本来業務ですから、安心して任せられます。ただし、弁理士の人選には十分ご注意ください。
スライドNo.44には、弁理士に依頼する場合の概算費用が掛かれています。特許等の権利を取得を検討される場合に、参考にしてください。
弁理士の人選に関する注意点も書いてあります。
もう一つは、スライドNo.45に示したように、コンサルティングです。具体的には、「特許・意匠・商標を用いてニッチ市場を独占する方法」に関するコンサルティングです。
特許・意匠・商標をどのように活用すれば、あなたの会社が求めるニッチ市場の独占を実現できるかを、コンサルティングを通じて教示し、支援いたします。
例えば、依頼者の問題に対して対応策・解決策を提案したり、必要に応じて、提案した対応策・解決策の実践法を指導したりします。
リーズナブルな価格で提供いたします。(応相談です。)
教示・支援の具体例は、左のスライドに書かれている通りですが、これらに限定されないことは言うまでもありません。
なお、ここでは触れてませんが、「暗黙知見える化」に関するコンサルティングもあります。 これについて、該当する記事をご覧下さい。
コンサルティングの項目・内容とその概算費用は、スライドNo.46に示したとおりです。
これらはあくまで一例です。
できる限りご希望に沿うようにしますので、お気軽にご相談ください。
本セミナーは、以上で終了です。
長時間お付き合いいただき、ありがとうございました。
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