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なぜ弁理士がこのような畑違いのことを考えたのか

まず、「暗黙知見える化コンサルティング」を企画した理由と、「暗黙知見える化コンサルティング」に対する想いをお話ししたいと思います。

特に、当所の代表である弁理士の泉が、どうして、このような畑違いのことを考えたのか、その経緯をエピソードとしてお伝えしておかなくてはいけないでしょう。

そうしないと、泉の「暗黙知」が一緒に伝わらないため、ここには明記されていない細かいニュアンスや感情が伝わらず、泉の想いや考えを正しく理解していただけないのでは、と思われるからです。

では、始めます。

当所代表の泉は、特許業界で30年以上働いて来ました。その間、日本を代表する大企業(NEC)とその関連企業を始め、数多くの中小企業やベンチャー企業((株)ザイキューブ等)の特許を取るお手伝いをしてきました。

その間ずっと、「その状況で力の限りを尽くす」というポリシーで仕事をしてきましたので、多くのクライアントに高い評価をいただき、やりがい、達成感も感じてきました。

が、2010年のころは、「無力感」が強くなっていたのです。

仕事をする上で感じた無力感

その理由は、苦労してお金をかけて良い特許をとっても、それが直接的にクライアントの業績改善につながることは、それほど多くないからです。

もちろん、特許の活かし方を心得ている中小企業はありますが、そのような中小企業は決して多くないと言えます。

なお、ここで、はっきりさせておかないといけないことがあります。それは、「無力感」は、弁理士本業がうまくいかないために感じていたわけではない、ということです。

事実、弁理士本業の特許関係業務では、主なクライアントの特許率が80%以上という実績を挙げています。特許率の高さがすべてだとは決して思っていませんが、実務能力を示す一つの証明だと思っています。

 そのような実績があるにも関わらず、特に、特許関係業務で 「無力感」が強くなっていたのです。

 その点を誤解されないように、お願いします。

気づき

そうこうしているうちに、最近、あることに気づきました。

「そうだ。企業にとって大事なのは、特許を取ることではないんじゃないか。

特許を取るのは、あくまで事業の役に立てるため、競争優位を得るためだ。自己満足だけで事業の役に立たないのなら、特許を取ってもあまり意味がない。

特許を取る前にやるべき、もっと大事なことがあるんじゃないか」と。

これは、決して、特許の重要性を否定しているのではありません。「特許を活かせる企業とそうでない企業を区別しないといけないよ」と言っているのです。

確かに、独自技術で勝負している企業にとっては、特許は重要ですし、事業をする上で必須です。

特に、同業他社が多数の特許を持っている業界(例えば電機・製薬業界)では、他社特許に対抗できる特許を持たずに、自社製品の製造・販売はできません。

しかし、それ以外の多くの企業(特に製造業以外の中小・零細企業、下請け企業)にとっては、特許は重要ではありません。ほとんどの場合、特許なしで事業ができます。

また、このような企業が、たまたま、新しいアイデアを考えたということから、特許を取れたとしても、その特許を事業で活かすのは簡単ではありません。弁理士の力を借りないと、望む結果を出すのは難しいでしょう。

そこで、思い浮かんだのが、「仕事を通じて熟練者の身体中に培われてきた「暗黙知(カン・コツ・ノウハウ)」を引き出し、それを概念化・普遍化・言語化して、熟練者本人以外でも簡単に利用できる教材の形で提供するのはどうか」というアイデアです。

これは、熟練者の「暗黙知」を組織の「共有知識」に転換する、と言い換えることもできます。

特に、熟練者の「暗黙知」に含まれている重要な「判断」に焦点を当て、その中で行われている「状況を読む」ステップと、その状況を「解釈する」ステップの詳細を見える化すれば、熟練者以外でも利用しやすく価値の高い資産に変えられる、と思ったのです。

 

熟練者は、「状況を読む」ステップでは、現状の中に何らかの特徴を見出しているはずです。また、「解釈する」ステップでは、その特徴から現状に対して何らかの意味づけをしているはずです。だから、それらのステップの詳細を見える化すれば、その熟練者以外の人も利用できるようになるのでは、と思いました。

そして、このような熟練者の「暗黙知」を組織の貴重な「知識資産」と認識し、もっと有効に使うことができれば、

・ 「暗黙知」の「属人性」解消

・ 「暗黙知」の全組織的活用

が可能になり、組織の業績アップが実現できるようになります。

もし、それが実現すれば、結果的に、上述した「無力感」が解消されるだろう、と思ったのです。

 

「 暗黙知見える化コンサルティング」は、このような想いと、それに基づく思考を経て生まれたものです。

 

 さきほどもお伝えしたように、 「 暗黙知見える化コンサルティング」は、 決して、特許を否定するものではありません。注目する対象を、特許の対象である「発明」やそれと同種のものに限定せずに、人が創出する有用なアイデア全般に拡張し、それらを組織内で活用するようにしましょう、と言うことなのです。

 これこそが「真の知識資産の活用」だ、と信じているからです。

暗黙知見える化に対する想い

「 暗黙知見える化コンサルティング」は、代表の泉が、

「何とかして、弁理士の本業である特許等の出願業務以外で、中小企業やベンチャー企業のお役に立ちたい」、

「もっと直接的に社長と社員に喜んでもらえる仕事をしたい」、

「今の我が社があるのは、あなたのおかげだ、と言われるようになりたい」、

と考えながら、10年以上の試行錯誤を経てようやく見つけたサービスであり、「ライフワーク」になると思っているものです。

ここで述べたことは、泉の勝手な思いかも知れません。しかし、日夜、頑張って経営している中小企業の社長を、自分のできることで何とか応援したいという気持ちは、10年来ずっと変わっていません。

そのために、今回実現できたのが、「暗黙知見える化コンサルティング」です。

 

 弁理士の世界では、長年、「知的財産の活用」が積極的に勧められています。

 しかし、ここで使われている 「知的財産」というのは、「知的財産権」と呼ばれている特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権と、それらの対象である発明、考案、意匠、商標、著作物に、ほぼ限定されているのです。

 これらは確かに重要ですし、うまく活用できれば良いことは言うまでもありません。

 

 しかし、 「知的財産権」を組織で活用し、期待する効果を挙げるのは、決して簡単ではありません。効果を上げるためには、かなりの手間と人とお金が必要です。中小・零細企業では、その実現は非常に難しいと思います。

 そこで、特許等の 「知的財産権」を活用することばかり考えることを止めて、 「知的財産権」以外の有用なアイデアや情報にも注目し、それらを組織的に活用することを考えた方が、有益ではないでしょうか。

 その方が、技術開発型ベンチャー企業を除く、多くの中小・零細企業では、効果的だと思うからです。

 

  「暗黙知見える化コンサルティング」は、 「知的財産権」以外の有用なアイデア・情報の一つである、熟練者が持つ「暗黙知」を活用しましょう、というのが、その趣旨です。これなら、手間も人もお金もほとんどかかりませんから、中小・零細企業でも導入が容易です。

 仮に、インタビューする熟練者が1名であるとすると、通常の場合なら、特許出願を弁理士に依頼したときの費用(特許出願の弁理士費用)と同等程度で、導入できます。かかる手間もわずかで済みます。

それにも関わらず、期待効果(メリット)は全社的に及ぶものであり、決して小さくありません。

例えば、次のような効果(メリット)が「期待」できます。

(ⅰ)熟練者の「暗黙知」を組織的に利用できる
(ⅱ)個々の組織構成員の業務遂行能力が向上する
(ⅲ)組織としての業務遂行能力が向上する
(ⅳ)熟練者の「暗黙知」がいっそう改良・発展する
(ⅴ)新しい「暗黙知」が続々誕生する
(ⅵ)熟練者の技術・技能承継が可能になる
(ⅶ)組織構成員が業務に自信を持つようになる
(ⅷ)特許につながる「発明」がたくさん生まれる
(ⅸ)「暗黙知」を「ノウハウ」として外販できる

 

 最後に、「暗黙知見える化コンサルティング」でインタビューを「弁理士」が行うようにした理由を、お伝えしておきます。

 それは、熟練した「弁理士」が持つ能力(スキル)を活かせば、比較的容易に「暗黙知」を概念化・普遍化・言語化できるだけでなく、その過程で「暗黙知」の本質を捉えることができるからです。

 そして、「暗黙知」の本質が明らかになれば、その共有、活用、発展も容易だからです。

 では、熟練した「弁理士」が持つ能力(スキル)とは、具体的には、どのようなものでしょうか?

 それは、

 ・発明(技術に関するアイデア)の理解力

 ・発明者の話から発明の本質を捉える対話能力

 ・発明者の話から発明の本質を見出す推論能力                      

 ・上位概念化した発明を生み出す概念化能力

 ・発明を言語と図で表す言語化能力と図像化能力
 ・発明に応じて特許明細書を構想する構想力

 ・長文の特許明細書を書き上げる文章力

 ・発明の抽象化と具象化を自在に行う思考力

などです。

 

 でも、これだけでは、十分ご理解いただけないと思います。

 そこで、次の 「弁理士の思考法の優れている点」において、「暗黙知見える化」の実践スキルとしてみた時の弁理士の思考法について、簡単な事例を使って、具体的に説明いたします。

 きっと、

  「えっ!弁理士って、そんなことやってるの?!」

という「驚き」が、いくつも見つかると思います。

 さあ、始めましょう。

弁理士の思考法の優れている点

弁理士の思考法には、他の士業の思考法とは明らかに異なる特徴があります。

次に、それについて説明しましょう。

 

発明者から新しい発明の話を聞いて、特許明細書を構想するとき、弁理士はどのように思考し、どのように判断しているのでしょうか?

ごく簡単な事例を用意しました。「六角形鉛筆」の発明の事例です。

 

Aさんが、次のような発明Xをしました。

それは、「断面が丸形だった従来の鉛筆の断面を六角形にして、転がりを防止する」、というものでした。

 

 

 

 

 

この場合、Aさんの発明Xは次のように整理できます。

発明Xの目的(課題)=机などの上に置いたときに転がらないようにする

発明Xの構成(手段)=六角形の断面を持つ鉛筆

発明Xの効果=机などの上に置いても転がらない

このように、発明Xを言語化・構造化できます。

でも、 Aさんがした発明Xをそのまま特許Xにしても意味がありません。

なぜなら、断面を六角形以外の形(例えば五角形)にすれば、「転がり防止」という目的を達成しながら、簡単に特許Xを避けられるからです。

つまり、Aさんが創作した発明Xそのままの特許Xを取っても、他社の真似を防止できない。つまり、事業ではまったく役に立たないのです。

意外でしょう!?

では、事業で役に立つ特許を取るために、弁理士は、発明Xをどのように調理するのでしょうか?

ふつうの弁理士は、断面六角形の鉛筆という発明Xのバリエーション(下図参照)を考えます。そして、断面は六角形でなくても転がりを防止できることに気づき、「多角形の断面を持つ鉛筆」と発明Xを上位概念化(抽象化)するのです。

 

 

 

 

 

 

 

そう、弁理士が、発明Xから発明Yを創出するのです。

そして、「断面を多角形にしたことを特徴とする鉛筆」と特許明細書に記載して、発明Yについて特許Yを取得します。

これは、発明Xを上位概念化して弁理士が創出した発明Yを、言語化・構造化して権利化することを意味します。

特許Yの効力は、特許Xに比べると強力です。「断面が多角形の鉛筆」すべてに権利が及ぶのですから。

でも、事業では、特許Yの効力でも十分ではありません。これでもまだ「抜け穴」があるため、賢い会社なら回避が可能だからです。

どういうことでしょうか?

 

これは、次のような断面の鉛筆を考えていただければ、すぐに納得いただけると思います。

下図のように、特許Yの権利範囲から外れるのに、転がりを防止できる例は、まだ、いくつもあるのです。

 

そのことに気づいたライバル企業Bは、特許Yを回避しながら、Aさんの六角形鉛筆と同様に転がりを防止できる鉛筆(前図のいずれか)を製造・販売します。

こうして、後発のライバル企業Bの鉛筆が市場に投入されると、特許Yで独占していた時に比べると、Aさんの六角形鉛筆の売れ行きは減るでしょう。

場合によっては、市場シェアの大半をライバル企業Bに取られてしまう可能性もあります。

そうなると、Aさんの苦心はいったい・・・・。

 

発明の創出から製品化までの経緯

ここで、発明Xの創出からその製品化までの経緯を振り返ってみましょう。

1.まず、Aさんの発明Xは、上位概念化された発明Yと変換され、特許Yとして権利化された。しかし、特許Yは、Aさんの事業ではあまり役に立たなかった。

2.見方を変えると、Aさんが苦心して生み出した発明Xと六角形鉛筆の製品は、ライバル企業Bに新製品のヒントを与えただけに終わった。
 これは、結果として、ライバル企業Bに塩を送ったのと同じではないか?

 

では、Aさんは、発明Xの特許Yを取らない方がよかったのでしょうか?

あるいは、もっと良い特許の取り方があったのでしょうか?

この疑問に回答することは、なかなか難しいです。が、Aさんに起こったことは、現実に、世間で起こっていることなのです。

 

もっと良い特許の取り方

では、ここで、「もっと良い特許の取り方がある」ことを示しましょう。

さきほどの弁理士よりも、優秀な弁理士がいたとします。

その優秀な弁理士は、プロフェッショナルとしての思考・判断を行います。すなわち、発明X(断面六角形の鉛筆)の本質を、「重心と表面との距離が不均一であること」と捉え、その本質に基づいて発明Xを上位概念化して発明Zを創出するのです。

 

発明Zを整理すると、次のようになります。

・発明Zの目的(課題)=机などの上に置いたときに転がらないようにする

・発明Zの構成(手段)=重心と表面との距離が不均一である筆記具*

・発明Zの効果=机などの上に置いても転がらない

*「鉛筆」についても上位概念化して、「筆記具」(鉛筆以外にボールペン、シャープペン等を含む)となっている点にご注意ください。

 

そして、「重心と表面との距離を不均一にしたことを特徴とする筆記具」と特許明細書に記載して、発明Zについて特許Zを取得します。これは、発明Xを上位概念化して弁理士が創出した発明Zを、言語化・構造化して権利化することを意味します。

このようにして取得した特許Zの効力は、ライバル企業Bの模倣をほぼ完全に防止できるので、ほぼパーフェクトな権利です。先に述べたライバル企業Bの鉛筆も、特許Zに抵触します。

 

ですから、Aさんにとっては、優秀は弁理士が担当して取得した特許Zは、すごく高い価値を持つわけです。

何とかして、いつも、このような特許を取れるようにしたいですね。

 

発明Zの中身

発明Zについて図示すると、次のようになります。こうすると、分かりやすいでしょう。

発明Xの本質=転がらない構造を持つ ⇒ 重心と表面との距離が不均一

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優秀な弁理士がしたことは、結局、「丸い鉛筆が転がる」ということの本質は、「重心と表面との距離が均一である」ことだと見抜き、断面六角形の鉛筆の発明Aの本質を、
    「重心と表面との距離を不均一にする」
と上位概念化して言語化したことだ、と言えます。

おわかりのように、弁理士の価値は、発明の「本質」を掴んで言語化できるスキル(実務能力)の如何で決まるのです。

 

なお、実際には、上述した優秀な弁理士の思考法と権利化を、いつも期待するのは、難しい面があります。多くの時間と手間がかかるからです。

 

また、特許Yの抜け道(迂回発明)は、ライバル企業は簡単に見つけられますが、発明者であるAさんの方では気づかないことが多いのです。自分がした六角形鉛筆のイメージに捕らわれているからです。
ですから、次のような特許の取り方がお勧めです。

Aさんのような最悪の事態が起こることを想定し、ライバル企業が特許Yを回避する発明(迂回発明)をして製品化するのを防止できるように、発明者であるAさんと弁理士が協力して、ライバル企業に先回りして「迂回発明」を生み出して特許を取る。

これは、大変なことではありますが、こうすることで、最悪の事態はほとんど防げます。

逆に、これを実施できない場合は、特許網を構築してライバル企業に勝つことをあきらめ、他の方法と特許を併用して収益を上げることを考える方がベターだと思います。

真に特許を事業で活かすためには、そこまで考えないといけない、ということです。

そういうことが分かると、ようやく、どのような特許戦略を立てるべきか、という発想が出てくるのです。その段階に来れば、弁理士と一緒に特許戦略を考えることをお勧めします。

そうすれば、期待通りの特許戦略が生まれる可能性が高まりますので、弁理士の働きに満足していただけるようになると思います。

(終)