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弁理士が行う思考と判断
発明者から新しい発明の話を聞いて、特許明細書を構想するとき、弁理士はどのように思考し、どのように判断しているのでしょうか?
ごく簡単な事例を使って説明しましょう。
「六角形鉛筆」の発明の事例です。
Aさんが、次のような発明Xをしました。
それは、「断面が丸形だった従来の鉛筆の断面を六角形にして、転がりを防止する」、というものでした。

この場合、Aさんの発明Xは次のように整理できます。
発明Xの目的(課題)=机などの上に置いたときに転がらないようにする
発明Xの構成(手段)=六角形の断面を持つ鉛筆
発明Xの効果=机などの上に置いても転がらない
このように、発明Xを言語化・構造化できます。
普通の弁理士の場合
ふつうの弁理士は、断面六角形の鉛筆という発明Xのバリエーション(下図参照)を考えます。
そして、断面は六角形でなくても転がりを防止できることに気づき、「多角形の断面を持つ鉛筆」と発明Xを上位概念化(抽象化)するのです。

でも、 Aさんがした発明Xをそのまま特許Xにしても、意味がありません。
なぜなら、断面を六角形以外の形(例えば五角形)にすれば、「転がり防止」という目的を達成しながら、簡単に特許Xを避けられるからです。
つまり、Aさんが創作した発明Xそのままの特許Xを取っても、他社の真似を防止できない。つまり、事業ではまったく役に立たないのです。
意外でしょう!?
では、事業で役に立つ特許を取るために、弁理士は、発明Xをどのように調理するのでしょうか?
言い換えると、ふつうの弁理士は、六角形を「多角形」と上位概念化した発明Yを、創出するのです。
ここで、発明Yを整理すると、次のようになります。
発明Yの目的(課題)=机などの上に置いたときに転がらないようにする
発明Yの構成(手段)=多角形の断面を持つ鉛筆
発明Yの効果=机などの上に置いても転がらない
そう、弁理士が、発明Xから発明Yを創出するのです。
そして、「断面を多角形にしたことを特徴とする鉛筆」と特許明細書に記載して、発明Yについて特許Yを取得します。
これは、発明Xを上位概念化して弁理士が創出した発明Yを、言語化・構造化して権利化することを意味します。
特許Yの効力は、特許Xに比べると強力です。「断面が多角形の鉛筆」すべてに権利が及ぶのですから。
特許Yの抜け穴
でも、事業では、特許Yの効力でも十分ではありません。これでもまだ「抜け穴」があるため、賢い会社なら回避が可能だからです。
どういうことでしょうか?
これは、次のような断面の鉛筆を考えていただければ、すぐに納得いただけると思います。
下図のように、特許Yの権利範囲から外れるのに、転がりを防止できる例は、まだ、いくつもあるのです。

そのことに気づいたライバル企業Bは、特許Yを回避しながら、Aさんの六角形鉛筆と同様に転がりを防止できる鉛筆(前図のいずれか)を製造・販売します。
こうして、後発のライバル企業Bの鉛筆が市場に投入されると、特許Yで独占していた時に比べると、Aさんの六角形鉛筆の売れ行きは減るでしょう。
場合によっては、市場シェアの大半をライバル企業Bに取られてしまう可能性もあります。
そうなると、Aさんの苦心はいったい・・・・。
発明Xの創出とその製品化
ここで、発明Xの創出からその製品化までの経緯を振り返ってみましょう。
1.まず、Aさんの発明Xは、上位概念化された発明Yと変換され、特許Yとして権利化された。しかし、特許Yは、Aさんの事業ではあまり役に立たなかった。
2.見方を変えると、Aさんが苦心して生み出した発明Xと六角形鉛筆の製品は、ライバル企業Bに新製品のヒントを与えただけに終わった。
これは、結果として、ライバル企業Bに塩を送ったのと同じではないか?
では、Aさんは、発明Xの特許Yを取らない方がよかったのでしょうか?
あるいは、もっと良い特許の取り方があったのでしょうか?
この疑問に回答することは、なかなか難しいです。
が、Aさんに起こったことは、現実に、世間で起こっていることなのです。
優秀な弁理士の場合
では、ここで、「もっと良い特許の取り方がある」ことを示しましょう。
さきほどの弁理士よりも、優秀な弁理士がいたとします。
その優秀な弁理士は、プロフェッショナルとしての思考・判断を行います。すなわち、
発明X(断面六角形の鉛筆)の本質を、「重心と表面との距離が不均一であること」と捉え、
その本質に基づいて発明Xを上位概念化して発明Zを創出するのです。
発明Zを整理すると、次のようになります。
発明Zの目的(課題)=机などの上に置いたときに転がらないようにする
発明Zの構成(手段)=重心と表面との距離が不均一である筆記具*
発明Zの効果=机などの上に置いても転がらない
(*「鉛筆」についても上位概念化して、「筆記具」(鉛筆以外にボールペン、シャープペン等を含む)となっている点にご注意ください。)
そして、「重心と表面との距離を不均一にしたことを特徴とする筆記具」と特許明細書に記載して、発明Zについて特許Zを取得します。
これは、発明Xを上位概念化して弁理士が創出した発明Zを、言語化・構造化して権利化することを意味します。
このようにして取得した特許Zの効力は、ライバル企業Bの模倣をほぼ完全に防止できるので、ほぼパーフェクトな権利です。先に述べたライバル企業Bの鉛筆も、特許Zに抵触します。
ですから、Aさんにとっては、優秀は弁理士が担当して取得した特許Zは、すごく高い価値を持つわけです。
何とかして、いつも、このような特許を取れるようにしたいですね。
発明Zについて図示すると、次のようになります。こうすると、分かりやすいでしょう。
発明Xの本質=転がらない構造を持つ
⇒重心と表面との距離が不均一


優秀な弁理士がしたことは、結局、「丸い鉛筆が転がる」ということの本質は、「重心と表面との距離が均一である」ことだと見抜き、断面六角形の鉛筆の発明Aの本質を、
「重心と表面との距離を不均一にする」
と上位概念化して言語化したことだ、と言えます。
弁理士の価値は発明の「本質」を言語化(+図面化)するスキルで決まる
このことからお分かりのように、弁理士の価値は、発明の「本質」を掴んで言語化(+図面化)できるスキル(実務能力)の如何で決まるのです。
なお、実際には、上述した優秀な弁理士の思考法と権利化を、いつも期待するのは、難しい面があります。
また、特許Yの抜け道(迂回発明)は、ライバル企業は簡単に見つけられますが、発明者であるAさんの方では気づかないことが多いのです。自分がした六角形鉛筆のイメージに捕らわれているからです。
ですから、次のような特許の取り方がお勧めです。
「Aさんのような最悪の事態が起こることを想定し、ライバル企業が特許Yを回避する発明(迂回発明)をして製品化するのを防止できるように、発明者であるAさんと弁理士が協力して、ライバル企業に先回りして「迂回発明」を生み出して特許を取る。」
これは、大変なことではありますが、こうすることで、最悪の事態はほとんど防げます。
逆に、これを実施できない場合は、特許網を構築してライバル企業に勝つことをあきらめ、他の方法と特許を併用して収益を上げることを考える方がベターだと思います。
真に特許を事業で活かすためには、そこまで考えないといけない、ということです。
そういうことが分かると、ようやく、どのような特許戦略を立てるべきか、という発想が出てくるのです。その段階に来れば、弁理士と一緒に特許戦略を考えることをお勧めします。
そうすれば、期待通りの特許戦略が生まれる可能性が高まりますので、弁理士の働きに満足していただけるようになると思います。
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