「暗黙知見える化」に使えるツール① 「半構造化インタビュー」
- 1.「暗黙知を見える化する」とは、どういうことか?
- 2.熟練者へのインタビューの難しさ
- 3.暗黙知見える化には「半構造化インタビュー」が有効
- 4.「半構造化インタビュー」を成功させるポイント
- 5.おわりに
1.「暗黙知を見える化する」とは、どういうことか?
1-1.「熟練者の持っている暗黙知(カン・コツ・ノウハウ)を見える化する」ということは、要するに、熟練者の持っている暗黙知を言語化したり、図像化したり、数値化したりして、暗黙知を形式知化(可視化)することです。
形式知化(可視化)すれば、容易に教材やテキストの形にすることができるので、非熟練者であっても、熟練者の暗黙知(カン・コツ・ノウハウ)を理解して自分で再現できるようになるからです。
しかし、熟練者は、他者にとっても価値がある暗黙知を自分が持っていることに気づいていないことがありますし、仮に気づいていたとしても、それを熟練者自身が見える化(形式知化)して他者に伝えるのは、極めて難しい、という特性があります。
熟練者は、その仕事のやり方は熟知していても、「自分の仕事のやり方」の教え方は知らないからです。教え方を習ったこともないからです。
熟練者は、たとえ、自分の「仕事のやり方(仕事ぶり)」というものを認識していたとしても、それは漠然としていて、且つ、感覚的なものであることが普通だからです。
それにもかかわらず、熟練者の持っている暗黙知(カン・コツ・ノウハウ)を見える化するには、「熟練者」本人に聞いて教えてもらい、且つ、それを「非熟練者」が理解できる形態・表現に書き換える以外に方法はありません。
そこで、必然的に、熟練者本人にあれこれ質問をして、熟練者が気づいている(認識している)情報と共に、熟練者自身も気づいていない(認識していない)情報も併せて引き出すことが必要になります。
さらに、こうして引き出した情報を言語化したり、図像(動画・静止画)化したり、数値化したりして、それらの情報を非熟練者が理解し、且つ、再現できるようにすることも必要です。
このようにして熟練者から引き出した各種情報、特に、熟練者自身も気づいていない(認識していない)情報の中には、暗黙知(カン・コツ・ノウハウ)が含まれていることが多いですから、それらの情報を見える化(形式知化)することで、それらの情報中に埋もれている暗黙知も見える化(形式知化)されることになります。
1-2.熟練者の「仕事のやり方」に関する情報を本人から教えてもらう方法として、最も効果的なのは、熟練者本人に対し、よく考えて設計した(工夫を凝らした)インタビューを実施して、仕事のやり方、考え方等に関する情報を引き出すことです。
引き出した情報の中には、熟練者が持っている暗黙知(カン・コツ・ノウハウ)が含まれていることが多いので、その情報を分析・解釈することで、暗黙知(カン・コツ・ノウハウ)を含む熟練者の仕事のやり方を非熟練者が理解し、且つ、再現できる状況を作ることができるようになります。
それができれば、熟練者の暗黙知を後継者に継承し、組織内で共有する体制の構築に近づくことになります。
2.熟練者へのインタビューの難しさ
2-1.熟練者へのインタビューが難しい理由の一つは、一般的に言って、熟練者は、非熟練者にとって価値がある暗黙知を(カン・コツ・ノウハウ)を自分が持っていることに気づいていないことが多いからです。
もう一つの理由は、熟練者自身が仮に気づいていたとしても、それは感覚的なものがほとんどのため、それを熟練者自身が見える化(形式知化)して非熟練者に伝えるのは、極めて難しいからです。
せいぜい、「こうやるんだよ。」といって非熟練者に仕事の動作を見せたり、「僕はこういうふうに考えてやっているよ。」と言って、自分の考え方を口頭で、あるいは、メモ書きを使って説明したりする程度でしょう。
しかし、その程度では、熟練者の仕事のやり方は伝わりませんし、まして、熟練者の持っている暗黙知(カン・コツ・ノウハウ)が伝わることは決してありません。
では、どうすればいいのでしょうか?
2-2.そもそも、インタビューをして、期待していた情報(や予想外の情報)を入手すること自体、決して簡単なことではありません。
しかし、インタビューには定番と呼べるやり方がいくつかあり、そのやり方に従って実施すれば、成功する確率は高くなります。
「暗黙知見える化」のために熟練者にインタビューする際には、「半構造化インタビュー」が有効に使えると思います。
ただ、「半構造化インタビュー」は、一般的に知られているやり方に従って実施すれば、だれでもうまくできる、期待していた成果が得られる、という類のものではありません。
十分な準備をすること、よく考えて質問を設計することが必須です。
そして、経験がものを言いますので、多くの場を踏んでインタビューという場とその雰囲気に慣れることが重要と思います。
3.暗黙知見える化には「半構造化インタビュー」が有効
3-1.「半構造化インタビュー」とは、あらかじめ用意した質問(構造)を持ちながら、状況に応じて柔軟に聞き方や順番を変えられるインタビュー形式です。
「半構造化インタビュー」の特徴は、柔軟さと深掘りのしやすさにあります。
「半構造化インタビュー」は、完全な「アンケート(構造化インタビュー)」ほど形式的ではない反面、完全な「自由対話(非構造化インタビュー)」ほど雑然としません。このため、その場その時の状況に応じて、投げかける質問の内容を変更したり、あるいは、新たに質問を追加したり、逆に、用意していた質問を省略したり、用意していた質問の順序を変更したりすることが容易です。
つまり、インタビューの現場で、状況に応じて融通をきかせやすく、期待していた情報の引き出しに失敗することが少ない、というメリットがあるのです。(逆に、臨機応変に対応しないといけないので、それだけ難しいとも言えます。)
「半構造化インタビュー」は、次のような場合に有効な手法です。
• 暗黙知のように「相手が言語化していない知識や感覚」を引き出したいとき
• 技術者や熟練者の「判断基準・行動原理」を可視化したいとき
• 後継者や他社員への知識移転の素材(事例集・教育資料)をつくるとき
3-2.上述したところから、「半構造化インタビュー」は、暗黙知見える化に有効に使えるツールの一つである、と言うことができます。
「半構造化インタビュー」では、質問文やその意図を記載したインタビュー・シートを用意しますが、そのインタビュー・シートの内容の出来不出来(質問の設計の良否)が非常に重要です。インタビューの成否に直結するからです。
「半構造化インタビュー」に使用されるインタビュー・シートは、例えば、以下の表のように書くことができます。
この例は、ある熟練者が行っている自社の「新製品のアイデア発想法」を対象として、暗黙知見える化のためのインタビューを行うことを想定して作成したものです。

3-3.インタビュー・シートに記載した質問によって「特に」引き出したい情報の一つは、熟練者の「判断」に関するものです。
例えば、熟練者は、どのような場面で、どのような判断を行っているのか、ということです。そして、その判断を行う際に使用している判断基準は、どのようなものなのか、また、判断をすべきか否かの契機となる手掛かりとして使用している情報は、どのようなものなのか、ということです。
インタビューで引き出したいもう一つの重要な情報は、熟練者が採用している「思考・行動」に関するものです。
例えば、熟練者は、どのような原理・ルール・パターンに従って考え、行動しているのか、あるいは、行動しないのか、あるいは、行動を変えるのか、ということを明示する情報、又は、少なくとも示唆する情報です。
インタビューを通じて見える化(形式知化)されたこれらの情報を体系的に整理して、訓練用の教材(テキスト)を作成すれば、その教材(テキスト)を使用しながら、OJTやセルフトレーニングを通じて訓練することで、非熟練者であっても、熟練者が行う高レベルの仕事ぶり、又は、それに近い仕事ぶりを再現できる可能性が高くなります。
たとえ、インタビューを通じて見える化(形式知化)された熟練者の「判断」や「思考・行動」に関する情報が、不完全・不十分であったとしても、それらが見える化(形式知化)されることで、一定程度の成果があった、と言えると思います。
非熟練者であっても、こうして見える化された情報から、熟練者の仕事のキーとなる部分を自分なりに理解することができ、その結果、非熟練者の仕事のやり方のレベルが向上する可能性が出てくるからです。
これが「暗黙知見える化」を実施したことによる成果・報酬、ということになります。
3-4.インタビュー・シートを作成する際には、インタビュー実施予定者(インタビュアー)は、熟練者と「予備的な打ち合わせ」を行い、熟練者の仕事ぶりを高く評価していること、そして、それを後継者に継承したいこと、などを伝え、熟練者に対してリスペクトを表明すると共に、熟練者の仕事ぶりを後継者に継承する活動に協力する旨の了承を、熟練者から得ることが大事と思います。
また、これから、インタビューを実施すること(1回又は複数回)、インタビュー後に行われる疑問点や不明点に関する質問があることを伝えて、それらについての協力を求め、了承を得ることも必要です。
熟練者の協力がないと、熟練者の仕事ぶりを後継者に継承することはできないし、その協力の程度の如何によって結果が大きく変動するからです。
さらに、インタビュー実施予定者(インタビュアー)は、少なくとも、熟練者の特定の技能・技術の内容をある程度理解するように努めることも必要です。
これによって、熟練者とのインタビューによって引き出せると予想される情報や、引き出したい情報などを見積もることが可能となるからです。また、少しでも的確な質問文を用意することが容易になるからです。
4.「半構造化インタビュー」を成功させるポイント
4-1.「半構造化インタビュー」を成功させるポイントとしては、例えば、以下のものがあります。
①質問の意図をあらかじめ明確にしておく
インタビュー・シートには、 単なる「質問文」だけでなく、相手から「何を知りたいのか(質問の意図)」を明記しておくのがよいです。
そうすると、対話が予定していたのとは違う流れになっても、臨機応変に対処できます。その結果、インタビュー時に期待していた情報が全然、あるいは、ほとんど得られなかった、といった事態を回避できます。
②質問の 順番にこだわりすぎず、状況に応じて融通をきかせる
相手の話の流れに応じて、予定していた質問の順番を柔軟に変えて構いません。
自然な対話を優先させたいからです。
③インタビュー・シートには、 自由記述欄を設けておく
インタビュー時に適宜、自由記述欄に、質問の回答以外の情報、例えば、回答時の相手の言い回し、相手の表情や、質問から回答までの間等々の関連情報をメモしておくのに使えます。
これらの関連情報は、インタビュー終了後に質問に対する回答を整理する際に役立ちます。
④相手が 語りやすい雰囲気をつくる
相手に難しく考えさせず、「雑談のようなやりとり」をするように留意し、熟練者のスキルや考え方の本質・特徴が自然に出てくるよう工夫します。
インタビューの冒頭に適当なアイスブレイクを入れたり、途中で相手の様子を見て適宜、休憩をとったりするのもいいです。
4-2.インタビュー・シートの草案ができると、試験的に1人(必ずしも、インタビュー対象の熟練者でなくてもよい)に対し実施してみるのがよいと思います。
そして、用意した質問の通じやすさ、話の引き出し方などを確認し、必要な改善を適宜行うのです。そうすることで、インタビュー・シートの質が向上します。
その結果、そのインタビュー・シートを使って熟練者に半構造化インタビューを実施した場合の成功率は、大きく向上することでしょう。
5.おわりに
5-1.「半構造化インタビュー」を実施した結果、熟練者から種々の情報が引き出されると、今度は、それらの情報(暗黙知を含む)を整理・検討・分析して、非熟練者(特に後継者)が理解し、且つ、再現できるようにする段階に入ります。
熟練者から引き出された種々の情報(暗黙知を含む)は、「非熟練者(特に後継者)が理解し、且つ、再現できるようにする」という視点から、整理・検討・分析を行います。
その際に使用されるのが、.フローチャートや、ストーリーマップといったツールです。
これらのツールについては、次回以降に触れるようにします。
5-2.「暗黙知見える化」を発想する契機となった「暗黙知」の意味、「暗黙知見える化」のベース(基礎概念)となっている「認知的タスク分析(Cognitive Task Analysis, CTA)」等々、お伝えしたいテーマはたくさんあります。
これらについても、次回以降の投稿で触れられれば、と思っています。
今回はここまでです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

