2026年10月23日(金)に第1回の「暗黙知見える化」オンラインセミナー・入門編を開催します。(2026/09/23)

「暗黙知見える化セミナー」開催のご案内

◼️開催概要
(1)「暗黙知は『言葉にできないもの』だから、いくらインタビューしてもダメだ」
「ベテランのカンやコツは、長年の勘だから教えようがない」
といった先入観をお持ちの方には、次の言葉を伝えたいです。

暗黙知とは、「言葉にできない知識」ではなく、「適切な問いを受けないと意識化されない思考プロセス」である。

この言葉は、マイケル・ポランニーの理論と、ゲイリー・クラインらの『認知的タスク分析(CTA)』の知見を、現代ビジネス向けに分かりやすく整理したものです。

暗黙知は、永久に言語化できない神秘的な知識なのではなく、適切な『問い』という光をあてていないから、ベテラン(熟練者)の意識下に沈んだままになっているだけです。適切な『問い』つまり質問を投げかければ、ベテランの意識下から浮かび上がってくるものです。

適切な『問い』を発する、つまり質問をするスキルは、本セミナーで解説するRPDモデルと、CTAの簡易版としてのACTAで定型化されている『プローブ質問』の知識を身に付け、演習でその『プローブ質問』を運用する実体験をすることで、習得することが可能です。

『プローブ質問』に対してベテランが答えた内容(インタビュー・データ)を分析・整理する手法も、同様です。

そのようにして、状況に応じて適切な『プローブ質問』を発するスキルと、インタビュー・データを分析・整理するスキルを身に着けると、対象タスクの種類・性質等に応じて、ベテランに対して投げかけるべき適切な質問を設計することが可能になります。そこで、そうして設計された一連の質問をベテランに投げかけると、その状況で実行される彼/彼女の「思考プロセス」が、ひいては、ベテランが自身の頭の中に持っている「メンタルモデル」が、自身の意識上に浮かび上がり、言葉になって出てくるのです。

ここで「メンタルモデル」とは、元は認知心理学の用語で、外界の現実世界を自分の頭の中で簡易的にシミュレーションし、意思決定や行動をすばやく行うための仕組みを指します。一般的には、人が『世界(仕組み・人間・状況)はこう動いているはずだ』と頭の中に持っている持論・イメージを意味します。

本セミナーは「暗黙知見える化」の「入門編」ですので、本セミナーを受講するだけで上述した2つのスキルを習得できるわけではありませんが、少なくとも、「ベテラン(熟練者)の『思考プロセス』や『メンタルモデル』を彼/彼女の意識下から浮かび上がらせることができるかもしれない」との気づきを持ち帰っていただける、あるいは、「ベテラン(熟練者)が持つ暗黙知の言語化は可能だ」との実感をお持ちいただけるのでは、と思っています。

(2)分かりやすい具体例を挙げましょう。
私自身の特許明細書作成という仕事(タスク)でいえば、以下に示すように、発明の種類別に作成した4つの経験パターン(以下、パターンと略します)毎に、特許明細書の書き方を調整している(この調整法がメンタルモデル)ことを引き出しています。

●「機械・構造系」の発明(パターン1):
  ・手掛かり:発明の特徴が、構造それ自体の改良等にあるか否か
  ・行動:  構造を示す図とその説明を重視して作成
  ・予測:  構造の違いによる作用効果の如何で拒絶される可能性
  ・ゴール:  構造の違いを主、機能の違いを従として新規性・進歩性を主張
⚫「電気・電子(回路)系」の発明(パターン2):
  
・手掛かり:発明の特徴が、回路それ自体の改良等にあるか否か
  ・行動:  回路構成を示す図とそれによる動作説明を重視して作成
  ・予測:  回路構成の違いにより生じる作用効果の表現が重要
  ・ゴール:  回路構成と作用効果をつなぐ論理により新規性・進歩性を主張
⚫「ソフトウェア・ビジネス系」の発明(パターン3)
  
・手掛かり:発明の特徴が、ソフトウェアによる改良等にあるか否か
  ・行動:  システムの機能と動作を示す図とその説明を重視して作成
  ・予測:  機能・動作の違いによる作用効果の表現が重要
  ・ゴール:  機能・動作と作用効果をつなぐ論理により新規性・進歩性を主張
⚫「化学・材料系」の発明(パターン4)
  ・手掛かり:発明が、化学・材料系(分野)であるか否か
  ・行動:  使用する物質・組成・処理等の具体例が決定的に重要
  ・予測:  物質・組成・処理等の違いによる結果の表現が重要
  ・ゴール:  具体的な実施例により裏付けできる範囲で新規性・進歩性を主張

パターン1~4は、長年の実務経験を通じて習得したものです。

(3)ここで、「手掛かり」「行動」「予測」「ゴール」という四つの項目を挙げていますが、これらの項目は、RPDモデルにおいて挙げられているものです。

RPDモデルによれば、これらの項目は次のような意味を持っています。
(イ)熟練者は直観的判断をしている時にパターン認識(パターンマッチング)を使っていること、
(ロ)そのパターン認識では、現状を自身が持っているパターンと比較して合致する又は近似するパターンを見出すが、その際に「手掛かり」つまり、パターン同士を区別するためのサインや気配が使用されること、
(ハ)「手掛かり」を使って現状と合致又は近似するパターンを見出すと、当該パターンとセットになっている採るべき「行動」が瞬間的に思い浮かび、当該行動の実行に移る態勢をとることができること、
(ニ)当該パターンとセットになっている採るべき「行動」と同時に、「予測」つまり、「このまま進むと何が起きるか」という将来の見通しと、「ゴール」つまり、この状況で現実的に達成できる目標も、思い浮かぶこと、
です。

上述した「手掛かり」「行動」「予測」「ゴール」という四つの項目が明らかになることで、熟練者が直観的判断を行う時の「認知活動(思考・判断プロセス)」の構造が見える化されることは、容易に理解できると思います。言い換えれば、上述した四つの項目を知ることができれば、熟練者が日常的に使っている「暗黙知」が意識化されて言語化されるため、他者にも見えるようになる、ということです。

(4)上述した「手掛かり」「行動」「予測」「ゴール」という四つの項目は、ACTAのプローブ質問を使うことで、容易に引き出すことができます。

例えば、「手掛かり」を引き出す場合には、
「そのような予想(判断)に至った切っかけ・サインは何でしたか?」
といった質問をします。
「行動」を引き出したい場合は、
「そのとき、まず何をしようと考えましたか?」
といった質問をします。
「予測」の場合は、
「このままだと、今後どうなると思いましたか?」
といった質問をすればいいわけです。
「ゴール」については、
「何を優先してそのゴールを決めたのですか?」
といった質問が挙げられます。

上述した特許明細書作成という仕事(タスク)に関する四つのパターンは、このような質問を自分に投げかけて自分で回答する(自問自答)ことで、引き出したものです。

私は、上述した4つのパターンを持っていると共に、それらの区別の仕方も分かっているため、発明提案書を読むだけで、あるいは、発明者との面談中に、「手掛かり」を見つけるだけで、その発明が直ちにどのパターンに合致又は近似するかが分かり、その結果として、
  ・「これはパターン〇の発明だな。」
  ・「この部分に××に関する説明が足りないから、このままでは明細書・図面の記載
    不備を理由とする拒絶理由通知が来るぞ。」
  ・「着手前に発明者に連絡して、追加の情報をもらわないといけないな。」
  ・「△△に関する情報が欲しい、と伝えよう。」
というような、直観的な判断が可能になるわけです。

(5)実際のインタビューのやり方についても少しお話しましょう。

熟練者の直観的な判断の中身を知りたい場合は、インタビューの最初の段階で、「その時、どこ(何)に注意を向けていますか?」「その判断をする時に意識しているサイン、これは例えば違和感や特徴などですが、それはどのようなものですか?」といった質問をし、熟練者がパターンの識別に使っている「手掛かり」を引き出します。

次に、「そのサインによって現状をどのような状況だと診断(解釈)したのですか?」と質問して、熟練者の「状況診断」の中身を引き出します。

最後に、「そのように診断(解釈)した結果、採るべき行動としてどのようなものを思い浮かべますか?」と質問して、熟練者がその状況で採るべき「行動」を引き出します。

つまり、熟練者に「手掛かり」⇒「(状況)診断」⇒「行動」の順に聞いていくことで、熟練者がその状況で行っている直観的な判断の中身(構成要素)を引き出すことができるのです。

これは、RPDモデルにおいて、熟練者は「手掛かり」「(状況)診断」「行動」の3つの構成要素を使って直観的判断を行っていることが分かっているからです。

具体的に言うと、まず「手掛かり」を使ってどの経験パターンが使えるかを知り、選択した経験パターンから現状の「(状況)診断」を行ってから、その経験パターンとセットになっている「行動」を思い浮かべる、というのが、熟練者の直観的判断のやり方だからです。

このように、RPDモデルの知見をベースにしてACTAのプローブ質問を適宜選択し、インタビュー中に熟練者に順に投げかけることで、熟練者の直観的な判断の中身(構造)を意識化する、言い換えれば、形式知化することができるのです。

あとは、見える化の対象とする仕事(タスク)の種類・性質などに応じて、自社独自の質問リストを設計すればよいのです。実践段階で経験を積んでいけば、質問スキルがブラッシュアップされ、質問設計のコツも分かって来ますので、より効率よく結果が得られるようになります。

(6)以上のようにして、ベテラン弁理士の思考・判断プロセスを言語化することができれば、その思考・判断プロセス(ひいては経験パターンの使い方に相当するメンタルモデル)が見える化され、ベテラン弁理士が持つ熟練スキルを組織レベルで承継・共有することが可能になります。
また、これにより、組織全体における業務効率アップが可能かつ容易になると思います。

上述した特許明細書作成という仕事(タスク)に関する例は、分析・整理が比較的容易なものですから、やり方は違っても、これと似たようなことは、多くの特許事務所ですでに実践されている、と推測しますが、「暗黙知見える化」を使えば、従前の手法ではできなかった仕事(タスク)に関する熟練者の思考プロセスやメンタルモデルが見える化される可能性が高くなります。

なお、中小企業でもAIが業務で普通に使用されるようになっている現状においても、言語化されない限り、熟練者の思考プロセスをAIにインプットすることはできません。AIに学習させることもできません。AIは万能ツールのように思われやすいですが、この点には注意が必要です。

(7)従来、熟練者の技術・技能を承継・共有する手法としては、以下のようなものが知られています。

(a)熟練職人からの聞き取りや熟練職人による教授などを通じて熟練技能を形式知化し、それを社員教育プログラムに反映させる例
(b)熟練職人が作業している手元の動きをカメラで撮影して、熟練者が「どこを見ているか(視線トラッキング)」をデータ化したり、作業中の細かな加減(力のはいり具合など)をセンサーで計測したりして、マニュアル等に反映させる例
(c)熟練職人が長年の勘で行っていた微調整をすべて振動センサーやトルク(力)のデータとして数値化して、工作機械(CNC)のプログラムにフィードバックする例
(d)ADR(Architecture Decision Records)(アーキテクチャ決定記録)というフォーマットを使用し、コンテキスト(背景)、決定事項、考慮した別の選択肢、結果(トレードオフ)の記載を必須にすることで、技術者の思考プロセスを言語化しようとするソフトウェア・IT業界の例
(e)設計変更やトラブルシューティングの「背景」「現状」「目標」「要因解析(なぜなぜ分析)」「対策」「効果確認」を、A3用紙1枚にストーリー順に記載するよう義務付けることで、技術者の直観を言語化する「A3思考プロセス」と呼ばれる例
(f)認知的タスク分析(Cognitive Task Analysis:CTA)と呼ばれる特殊なインタビュー手法を使って、ベテラン技術者自身も言語化できていなかった「暗黙の判断基準」や「異常の兆候(ノイズやデータの違和感)」を引き出し、トラブルシューティングの意思決定ツリーとして形式知化することで、ベテラン技術者の危機察知能力を抽出しようとする、航空宇宙・プラント設計業界の例

「暗黙知見える化」は、上述した手法(f)と同じ路線上にあります。が、トラブルシューティングの意思決定ツリーとして形式知化するのではなく、主として、熟練者(特に、弁理士等の専門職・エンジニア・経営陣や管理職等のナレッジワーカー)の直観的な思考・判断プロセスを言語化することで、その中に潜んでいる暗黙知(経験パターンやメンタルモデル)を引き出すことを狙っている点で、上述した手法(f)とは異なっています。

(8)本セミナーでは、AIを使って「暗黙知見える化」を効率化する手法にも言及します。
AIを活用することで、RPDモデルが提案された1980年代後半や、ACTAが開発・提案された1990年代後半には、多大なコストと労力を要したインタビューの実践や文字起こし、インタビュー・データの分析・整理などの作業が、低コストで、中小企業(個人)でも十分実践可能な状況になっているからです。

本セミナーを受講することで、従前の認識を変えていただければ、と思っています。

(9)なお、「暗黙知見える化」の実践段階の話になりますが、『プローブ質問』を使ってベテランにインタビューする人(インタビュアー)としては、ベテランと同種の仕事をしている中堅又は若手の社員の方が好ましいと思われます(ベテランに質問するモチベーションが最も高いと思われるからです)が、これに限定されるわけではありません。

また、インタビュー・データの分析・整理は、インタビュアーよりも熟練技術・技能の承継・共有を大局的に捉えて考察できる管理職(又は経営陣)の方が担当するのが好ましいと思われますが、インタビュアーの場合と同様に、これに限定されるわけではありません。

各社で最適と考える方を人選していただければ、それで問題ありません。

本セミナーでは、「暗黙知見える化」の理論的(学術的)な解説だけではなく、このような実践段階での考え方や注意点など、「暗黙知見える化」を中小企業で実践する際の進め方などについてもお話しいたします。

(10)受講申込の前に、本セミナーのプログラム等についてお聞きになりたいことがございましたら、下記の【お問い合わせ】に記載のメールアドレスあてに、メールでお尋ねください。速やかに回答させていただきます。

【開催日時】2026年10月23日(金)13:30〜16:30
【開催方法】オンライン(Google Meeetを使用します)
【参加費】5,500円(税込)
【お問い合わせ】担当:泉 克文(izumik@izumi-pat.jp)

【プログラム】
1.はじめに
2.「暗黙知見える化」を始めた経緯
  ●特許明細書作成という仕事で培われた3つのスキル
  ●特許明細書作成で使用される3つのフレームワーク(思考パターン)
  ●3つのスキルの暗黙知見える化への転用
3.「暗黙知見える化」で使用される用語
  ●perception(知覚)
  ●recognition(認識)
  ●cognition(認知)
  ●perception(知覚)、recognition(認識)、cognition(認知)の使い分け
  ●judgment(判断)とdecision making(意思決定)の意味と違い
  ●perception(知覚)=感覚レベル(低)
     → recognition(認識)=パターン認識レベル(中)
       → cognition(認知)=思考・判断レベル(高)
4.暗黙知とは何か
  ●技術と技能
  ●知識と知恵
  ●暗黙知と形式知
5.「暗黙知見える化」の内容(RPDモデル、ACTA)
  ●RPDモデルで熟練者の思考・判断プロセスを理解する
    ・RPD(Recognition-Primed Decision)(認識主導型意思決定)モデルとは?
    ・RPDモデルのバリエーション1(状況が典型的な場合)
    ・RPDモデルのバリエーション2(状況が不明確な場合)
    ・RPDモデルのバリエーション3(状況は明確だが行動が決まらない場合)
  ●ACTAのプローブ質問で熟練者の思考・判断を分解・分析する
    ・ACTA(Applied Cognitive Task Analysis)(応用認知的タスク分析)とは?
    ・ACTAのステージ1(タスク図インタビュー)
    ・ACTAのステージ2(知識監査インタビュー)
    ・ACTAのステージ3(シミュレーション・インタビュー)
    ・ACTAのステージ4(インタビュー・データの分析・整理)
  ●仮想事例でACTAの理解を深める(テーマ:不確実な特急試作案件の受託判断)
  ●AIを活用して「暗黙知見える化」を効率化する
6.おわりに
  ・個別相談と、セミナー本編(実践編)について

■お申し込みはこちら: 〈https://forms.gle/8azQuALuYd6jH3PZ9〉

お申し込みを確認した後、請求書をメールでお送りしますので、所定口座あてに受講料のお振込みをお願いいたします。受講料の入金確認をもって、正式の受講申込とさせていただきます。